カジューのインド徒然草

インド(ニューデリー在住)。旅行記を中心にインド生活を綴る。ヒンディー語も勉強中。20代中盤のインド大好き若手駐在員の徒然なる日常を書き記します。

『古文漢文不要論』について、インドに来て思う事

昨日くらいからX上で古文漢文不要論がまた盛り上がってるのを見た。私は学生時代から一貫して古文漢文が不要だと思ったことは一度もない。しかし、それもよく考え直してみると、一貫して"古文漢文必要論"に立っていたわけではない。私の古文漢文に対するスタンスは①学生時代(特に高校時代)、②大学社会人時代(受験終了後漠然と)、③そして今、の3つの変遷を辿っている気がするので、思考の整理を兼ねて私の思うところを記す。定期的に話題になるこの件だが、なぜ今また古文漢文不要論が話題になっているかというと、おそらく国立大の2次試験が終わったばかりで皆受験の話をしたいんでしょう。たぶん。

 

学生時代(主に高校時代)

高校時代、一番私が古文漢文に触れていた時期は、古文漢文の要不要にこだわっていなかった。授業をしっかり聞いていたわけではないが、古文漢文で出てくるお話を読むのは普通に楽しかったし、例えば『胡蝶の夢』なんかは初めて読んだ時衝撃を受けた。「狂人の真似とて大路を走らばすなわち狂人なり」は私の座右の銘というか一番好きな言葉の一つでもある。

そしてなにより、テストで点数が取れていた。私にとっては数学よりも頭を使わずに解けるし、歴史ほど詳細までしっかり覚える必要もなく、比較的楽に点が取れるサービス科目だと思っていた。特に古文は、平安時代ならいざ知らず、江戸時代の文章とかは現代の格式高い文章とそれほど多く変わることはないので、そのまま文章を読み、そのまま問題文を読んで、そのまま答えるだけのものだと思っていた。実際にテストとして得意だったこともあり、不要論を唱えることは無かった。寧ろ無くなったら点を稼ぐポイントが減ってしまう。これで、古文漢文が壊滅的に苦手だったのであれば、もしかしたら不要説の立場に立っていたかもしれない。

 

高校時代の私は、逆説的なのだが、古文漢文不要論は決して唱えないながらも、気合を入れて勉強していたわけではない。みんなと同じ単語帳を読むだけ、という感じ。そんな感じで受験していたら、入試の2次試験で思いっきり平安時代源氏物語が出題されて、ほとんど問題が何を書いているか分からずに絶望したことを覚えている。

 

その後漠然と。。。

その後、普通に人生を生きてきた中で、特に古文漢文の要不要を深く考えることは無かった。たまにTwitter上でこの議題が上がったときにちょっと自分で考えるくらい。

そのときのジェネラルな私の考えとしては、「古文漢文を学ぶことが大事なのは当たり前じゃない?」という考え。

まず一番に出てくるのは、教養。竹取物語源氏物語枕草子徒然草土佐日記古今和歌集平家物語、などなどなどなど。日本人として知ってて当たり前のことを学ぶことは大事。漢文も同じで、孔子の考えもそうだし、例えば"矛盾"の話とかは知っておかなければいけないことだと思う。太陽が東からのぼって西へ沈むこと、S極とN極が互いにひかれあうこと、関ヶ原の合戦徳川家康が勝ったこと、このへんと同じく、知っておかねばならないことだと思う。ここにも、これを知らなくても生きていけるという反論はあるかもしれないが、それを言い出したら足し算ができなくても生きていけるし、字を読めなくてもべつに生きていける。それはインドに来て本当に身に染みて学んだ。

 

教養は勿論のこと、今現在自分たちが使っている言葉がどのような成り立ちで出来ているかを知るのって、自分の思考の枠組みや思考体系を知ることにもつながる。それって、とても大切なことだと思う。そしてこのとおり古文が必要なので、同様に漢文も必要だという理論。だって、はるか昔、日本人は公式な場では漢文を用いていたんだから。この、"自分たちの言葉の成り立ちを知る"っていうのが不要だろ、と言われたらどう反論しようか。ちょっとイデオロギー的な話になってきたり、国家論的な話に立ち入ってきそうな気がする。でもこれはある意味では正しくて、元々の国民皆教育の成り立ちを考えれば、自国の言葉の成り立ちを学ぶことで日本人としての意識を醸成するというのは教育において非常に重要な役割を占めている、と言わざるを得ない。そして私もそう思う。だから必要だし、大事だし。

 

そして、知的好奇心という意味でも重要だな、と思う。これは個人の感性によるものが大きいと思うので単なる主張の補強にしかならないのだけれども。何百何千年前に同じ日本列島に暮らしていた人が、私たちが今使っている言葉の下となった言葉を使って実際に言語活動を紡いでいたことが分かるって、すっごいワクワクするし、面白いと私は思う。

 

「古文は必要だが漢文は不要!だって中国の言葉じゃないか!」って言っている人の考えは正直よく分からない、と思っていたし今でも思っている。我々日本人の祖先が我々と同じように読んできて、日本語の中に取り入れてきた言葉なんだから漢文は日本語の一部でしょう。ひらがなかたかなが漢字(万葉仮名)に由来していることや、ひらがなかたかなを用いて文章・日記を書くことが馬鹿にされていた時期があるということは、一般的な教育を受けているなら知っているはずなのだが、うーん。

"日本語の歴史の中の漢文を学ぶ"ことが大事なのだったら、最初から全て書き下した文章で読ませろ!という主張ならまあわかる。漢文を書き下す術は、正直我々が身につけるものでは無いと私も思う。確かに漢文の白文をそのまま暗唱することが教育だった時代もあるだろうが、それはあくまでお経を暗唱するような物であって、直接"日本語"に与える影響は極めて軽微であることがうかがえるから。ただし私の記憶が確かなら、私が受けたときの漢文の入試問題は白文で出されていたような。。。大学入試を受けたのが2017年、既に7年前か、とも思うしまだ7年しかたっていないのか、とも思う。まあそれは置いといて。

 

今、インドで何を考えるか。

今、私はインド人とより深いコミュニケーションを取るために、ヒンディー語を学んでいる。ヒンディー語学習の一環で、より多くのインド人とヒンディー語で話そうと繋がりをつくっている。そんな中、特に若い世代のインド人と話していると、以下のようなことをよく聞く。

「I'm not good at Hindi」「My Hindi is so broken」「I've learned Hindi at school, but...」

これらは、北インドの中心地、デリーで生まれ育った人たちから聞いた。南インド出身で、そもそも母語ヒンディー語ではなく、ヒンディー語をそもそも使わないとかではない。周りにヒンディー語が溢れているような状況で、自分たちの母語ともいえるヒンディー語を上手く話せない、それほどヒンディー語の知識が無い、と言ってしまうのだ。

インドでよく聞く言葉で、"I'm English Native, Hindi Medium"、こんな言葉がある。特に都市部の若者に多いのだが、子供のころから教育を全て英語で受けて、自分の母語は英語でありヒンディー語はso-soだ、という人たちだ。いまインドの若者の間では、自国の言葉で自分をうまく表現できない、自国の言葉を使うことにコンプレックスがある、そんな状況になってしまっている。ヒンディー語の難しい語彙はShudh Hindi(Pure Hindi)と呼ばれ、そういう語彙を使うことは"ダサい"こととされる。非常に深く細かい概念をヒンディー語では議論するのが難しい、そんな状況になっている。

 

このままいけば、インドの素晴らしい特徴の一つである"言語の多様性"はそう遠くないうちに消えゆくと思う。それは第一公用語を自称するヒンディー語による侵食ではなく、英語によるものだ。自国の言葉が無くなったら、国の歴史を、文化を、伝統を、すべて自国の言葉で語れなくなってしまう。(インドでは"自国の言葉”というワードを使うのは不適切だが、一般化している。)そんな未来を想像すると、怖いし、グロテスクな現実だと思った。

 

じゃあ日本は?恐らく、今後も色々な変容が見られるであろうが、日本で話される言葉が"日本語"であることは変わらないのではないかと思う。そして、変えてはならないと思う。日本語で紡がれてきた歴史や文化の糸を断ち切ってはいけないと思う。特殊な高等教育を受けた人だけが自国の歴史や文化にアクセスできるような状況では絶対にいけないと思う。そして、古文漢文を学ぶことは、この状況を守ることにも繋がると思う。だから、古文漢文は絶対に必要だ、という主張はインドに来てますます強くなった。

 

そして、要不要を語る前に、そもそも自国の言葉の古文漢文を学ぶことが出来る、というのがいかに特権的であるか、をしみじみと感じている。義務教育で、今使っている言葉のなりたちから全て学ぶことができる。なんと特権的なことか。別に、卒業したら"あらまほし"の意味を忘れたっていいし、"はなじろむ"の意味が分からなくたっていい。でも、この特権性を忘れて古文漢文の不要論を徒に唱えるのは、いささか早計ではないかなと思うし、もし古文漢文が不要だと思う人がいるならば、ちょっと思い直して欲しいとも思う。この特権性は大学教育についても言えることだと思っていて、自国の言葉で世界最高水準の大学教育まですべて修了できる国ってどれだけあるだろう。このことについてはまた徒然と別の記事でいつか綴ろうと思う。

 

 

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